2013年02月08日
伝統的な潮干狩り「イザリ」
奄美以南の南西諸島では、イザリという伝統的な潮干狩りが行われています。
今年も数回ですが、
年末からこのイザリを調査してきました。
そこで、2011年に「瀬戸内町立図書館・郷土館 紀要 第6号」(※1)に
投稿した報告と合わせて、紹介したいと思います。
イザリは、潮干狩りといっても、行くのははなんと真冬の真夜中です!
1月とか2月なので、本州では氷点下になっている頃ですが、
奄美では夜でも8~10℃ぐらいなので、わりと普通に海に出られます。
ただ、北風がきつく吹くとさすがに寒い時もありますね。
さてイザリに行く時間ですが、大潮の一番潮の引く時間の前後です。
奄美では大潮の頃、
一番潮が引く時間が夜中の12時から2時頃。
一番潮が引く日は、なんと潮位がマイナス数十センチにもなります。
遠浅の浜へ行くと、普段は海の場所が、
ずーっと沖まで陸になっているいるのですごい不思議な感じがします。
干潮で取り残されたマンジュウヒトデ(これは食べません)
イザリはこの潮に合わせて行くので、
終わってから片付けが終わるのは午前3時とか4時になることも。
次の日が仕事でも、
イザリをする人は「もっとしたい、けど明日仕事だし・・、あっそろそろ潮も上がりはじめたかな・・」
といったように心のなかで葛藤しつつも、楽しみながらされているようですね。
もちろん真夜中の海の上なので、まわりは真っ暗。
満月ならまわりが見えるのですが、
新月の時は本当に真っ暗で、星や遠くの集落の光しか見えません。
私が調査で初めて同行したとき、
その星の綺麗さと、真夜中の海の上に立っている不思議な感覚に感動しました。
それと同時に、ちょっと説明しにくいのですが、
異界?がそばにあるのでは?とちょっと怖い感じがありました。
最近はイザリをせず写真を撮るだけのことが多いのですが、
それでも何か非日常を感じて、怖いながらもドキドキすることがありますね。
ちなみに宇検で聞いた小ネタです。
5人でイザリに行ったのに、
朝まで周辺に見えるライトが5つあった(本人を引いたら4つのはず)とかいう話も聞きました。
見られた方はケンムン?とおっしゃっていましが一体なんだったのでしょうか・・・。
真っ暗なので、獲物を探すのにライトを使います。
現在では大半の方が付け替え式ガスランプを使っていますが、
一昔前まではカーバイトランプ、さらにその前はたいまつや松やに、
ススキなどを燃やしてて明かりにしていたという記録もあります。
ススキってすぐに燃え尽きて、長時間使えないような気がするのですが・・・。
近年では新しい光源のLEDライトも少し増えてきたような感じですね。
道具といえば、イザリをする人の多くは使う道具を自作しています。
これもイザリのひとつの楽しみになっています。
例えば、これまで多くの人は竹製のテルを使ってきましたが、
近年ではプラスチックのカゴやナイロンのリュックなど、
様々な物を自分なりに加工した入れ物を利用しています。
また、貝をひろう道具にしても、いろんな道具を考えられ応用されていました。
中には親が作った技術を受け継いでいる人もいらっしゃいますね。
対象となる海産物は、貝類やタコがメイン。
瀬戸内町では大島海峡があり、あちこちに遠浅の干潟が多くみられます。
この干潟を中心にイザリが行われます。
また笠利によくみられる珊瑚礁のリーフでもイザリが行われています。
とる場所によって種類もかわり、中にはこれ食べられるの?みたいな種類もありました。
とる人によって好みが分かれるようですね。
ニギャブトゥ(レイシガイの仲間)やミソブトゥ(イモガイの仲間)といったように、
味がそのまま貝の方言名になっているのもあり、食に直結してて面白いですね。
とった海産物は、どんなに遅くても、すぐに茹でてからみんなで食べられる家もありました。
▲真夜中に調理されるスガリ(ウデナガカクレダコ)
ここでは食べるだけではなく、貝がこれだけとれたとか、
大きな獲物を逃したとか、今年はあまり見つからないなどその日あった話や、
昔話しも混じり、楽しそうに話していました。
また現在ではあまり見られませんが、
集落によっては浜で焚き火をして、イザリした人達で深夜の交流会をしていたそうですね。
こうやって普段とは違った人と人とのつながりもあったんでしょうね。
このように行われているイザリという行事ですが、
簡単に現在のイザリ状況をまとめると、
・イザリは主に漁師さんではない一般の町民が、冬の夜に自然に流れにしたがって期間限定でやっている。
・イザリをすることで準備する楽しみ、とる楽しみ、歩く楽しみ、食べる楽しみが生まれる。
・活動を通じて人と人との交流がある。
といったところでしょうか。
根拠はありませんが、
イザリは火などの明かりさえあればできるので、
島に人々が住みだしてから何千年も繰り返し行われてきたのではないでしょうか。
縄文時代の遺跡からも同じような種類の貝殻が出てきています。
もしかしたら昔の人もこうよう採取を通じて、
自然に対して畏敬の念を抱いていたのかもしれませんね。
大昔から続いてきたであろうこのイザリ、
今後も海の資源がなくならないようにを気をつけながら、
島の暮らしの一部として続いていってほしいですね。
現場監督 水野
< 参考文献など >
・恵原義盛 1973『奄美生活誌』西日本新聞社
・引用 「瀬戸内町立図書館・郷土館 紀要 第6号 2011」
(※1)紀要は、瀬戸内町立図書館・郷土館で購入できます。郵送も可能なので詳細はお問合せください。
瀬戸内町立図書館・郷土館 0997-72-3799
2013.01.11 瀬戸内町 某所
S.B.I (瀬戸内町 文化遺産 活用実行委員会)
鹿児島県 奄美大島 瀬戸内町立図書館・郷土館内
今年も数回ですが、
年末からこのイザリを調査してきました。
そこで、2011年に「瀬戸内町立図書館・郷土館 紀要 第6号」(※1)に
投稿した報告と合わせて、紹介したいと思います。
イザリは、潮干狩りといっても、行くのははなんと真冬の真夜中です!
1月とか2月なので、本州では氷点下になっている頃ですが、
奄美では夜でも8~10℃ぐらいなので、わりと普通に海に出られます。
ただ、北風がきつく吹くとさすがに寒い時もありますね。
さてイザリに行く時間ですが、大潮の一番潮の引く時間の前後です。
奄美では大潮の頃、
一番潮が引く時間が夜中の12時から2時頃。
一番潮が引く日は、なんと潮位がマイナス数十センチにもなります。
遠浅の浜へ行くと、普段は海の場所が、
ずーっと沖まで陸になっているいるのですごい不思議な感じがします。
干潮で取り残されたマンジュウヒトデ(これは食べません)
イザリはこの潮に合わせて行くので、
終わってから片付けが終わるのは午前3時とか4時になることも。
次の日が仕事でも、
イザリをする人は「もっとしたい、けど明日仕事だし・・、あっそろそろ潮も上がりはじめたかな・・」
といったように心のなかで葛藤しつつも、楽しみながらされているようですね。
もちろん真夜中の海の上なので、まわりは真っ暗。
満月ならまわりが見えるのですが、
新月の時は本当に真っ暗で、星や遠くの集落の光しか見えません。
私が調査で初めて同行したとき、
その星の綺麗さと、真夜中の海の上に立っている不思議な感覚に感動しました。
それと同時に、ちょっと説明しにくいのですが、
異界?がそばにあるのでは?とちょっと怖い感じがありました。
最近はイザリをせず写真を撮るだけのことが多いのですが、
それでも何か非日常を感じて、怖いながらもドキドキすることがありますね。
ちなみに宇検で聞いた小ネタです。
5人でイザリに行ったのに、
朝まで周辺に見えるライトが5つあった(本人を引いたら4つのはず)とかいう話も聞きました。
見られた方はケンムン?とおっしゃっていましが一体なんだったのでしょうか・・・。
真っ暗なので、獲物を探すのにライトを使います。
現在では大半の方が付け替え式ガスランプを使っていますが、
一昔前まではカーバイトランプ、さらにその前はたいまつや松やに、
ススキなどを燃やしてて明かりにしていたという記録もあります。
ススキってすぐに燃え尽きて、長時間使えないような気がするのですが・・・。
近年では新しい光源のLEDライトも少し増えてきたような感じですね。
道具といえば、イザリをする人の多くは使う道具を自作しています。
これもイザリのひとつの楽しみになっています。
例えば、これまで多くの人は竹製のテルを使ってきましたが、
近年ではプラスチックのカゴやナイロンのリュックなど、
様々な物を自分なりに加工した入れ物を利用しています。
また、貝をひろう道具にしても、いろんな道具を考えられ応用されていました。
中には親が作った技術を受け継いでいる人もいらっしゃいますね。
対象となる海産物は、貝類やタコがメイン。
瀬戸内町では大島海峡があり、あちこちに遠浅の干潟が多くみられます。
この干潟を中心にイザリが行われます。
また笠利によくみられる珊瑚礁のリーフでもイザリが行われています。
とる場所によって種類もかわり、中にはこれ食べられるの?みたいな種類もありました。
とる人によって好みが分かれるようですね。
ニギャブトゥ(レイシガイの仲間)やミソブトゥ(イモガイの仲間)といったように、
味がそのまま貝の方言名になっているのもあり、食に直結してて面白いですね。
とった海産物は、どんなに遅くても、すぐに茹でてからみんなで食べられる家もありました。
▲真夜中に調理されるスガリ(ウデナガカクレダコ)
ここでは食べるだけではなく、貝がこれだけとれたとか、
大きな獲物を逃したとか、今年はあまり見つからないなどその日あった話や、
昔話しも混じり、楽しそうに話していました。
また現在ではあまり見られませんが、
集落によっては浜で焚き火をして、イザリした人達で深夜の交流会をしていたそうですね。
こうやって普段とは違った人と人とのつながりもあったんでしょうね。
このように行われているイザリという行事ですが、
簡単に現在のイザリ状況をまとめると、
・イザリは主に漁師さんではない一般の町民が、冬の夜に自然に流れにしたがって期間限定でやっている。
・イザリをすることで準備する楽しみ、とる楽しみ、歩く楽しみ、食べる楽しみが生まれる。
・活動を通じて人と人との交流がある。
といったところでしょうか。
根拠はありませんが、
イザリは火などの明かりさえあればできるので、
島に人々が住みだしてから何千年も繰り返し行われてきたのではないでしょうか。
縄文時代の遺跡からも同じような種類の貝殻が出てきています。
もしかしたら昔の人もこうよう採取を通じて、
自然に対して畏敬の念を抱いていたのかもしれませんね。
大昔から続いてきたであろうこのイザリ、
今後も海の資源がなくならないようにを気をつけながら、
島の暮らしの一部として続いていってほしいですね。
現場監督 水野
< 参考文献など >
・恵原義盛 1973『奄美生活誌』西日本新聞社
・引用 「瀬戸内町立図書館・郷土館 紀要 第6号 2011」
(※1)紀要は、瀬戸内町立図書館・郷土館で購入できます。郵送も可能なので詳細はお問合せください。
瀬戸内町立図書館・郷土館 0997-72-3799
2013.01.11 瀬戸内町 某所
S.B.I (瀬戸内町 文化遺産 活用実行委員会)
鹿児島県 奄美大島 瀬戸内町立図書館・郷土館内
Posted by ヒギャジマン プロジェクト at 11:45│Comments(0)
│民俗
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